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新型コロナウイルスのワクチンの一般接種枠に余裕があるのに、会場に人が集まらない。そんな現象が南アフリカで起きている。「反ワクチン」の人が特に多いわけでもないらしい。一体どういうことなのか。
南ア最大都市ヨハネスブルク郊外のウォーターワークス地区。「ワクチンを打てるなら打ちたい。誰か連れて行ってくれればいいけど」。トタン板で作った粗末な掘っ立て小屋が並ぶスラムで、失業中のベキンコース・マテブラさん(52)が話した。南ア政府は欧米の製薬企業から独自にワクチンを調達。50代の接種は7月から始まり、多くの会場で予約なしで接種を受けられる。
実は「往復で数百円」のバス代が捻出できないのだ。
同地区は空き地に住民が無断で家を建てて住み始めたのが始まりで、現在は子供から高齢者まで数千人が暮らす。水道や電気もほとんど通らず、トイレも共同の簡易式が所々にあるだけ。元々苦しかった人々の生活はコロナ不況で厳しさを増し、地元メディアによると昨年は餓死者も出たという。だが行政やNGOからの支援は限定的だ。それはいったいなぜなのだろう。
地元で雑貨店を経営するルイス・ヌドルさんは今年に入り風邪のような症状で高熱を出した。コロナ感染を疑ったが、病院への交通費がないため、近所で自生する木の葉を煮出して服用しただけだった。「不況で店の利益は以前の4分の1以下に落ち込み、1日50ランド(約380円)に満たない。ワクチンを打ちたいが、会場までの往復のバス代があればパンが3斤買える」と話すヌドルさん。地区内では職域接種を受けた人らを除き、多くが未接種とみられる。
専門家の調査でも、やはり移動手段がネックになって接種が進まないとの分析がある。ヨハネスブルク大などの研究チームが6、7月に市民約7900人を対象に行った調査では、自家用車がある人は16%が既に1回以上接種を受けていたのに対し、ない人は9%と倍近い開きがあった。また、接種に肯定的だった人の割合は黒人が75%で、白人の52%を上回っているにもかかわらず、接種済みの割合は黒人10%、白人16%で、白人の方が多いという逆転現象も起きている。
南アでは1990年代まで続いたアパルトヘイト(人種隔離)政策の影響もあり、今なお人種間の経済格差が大きい。また、面積は日本の3倍以上と広大だが、公共交通機関は貧弱だ。今回の調査から浮かび上がるのは、白人をはじめとする中間・富裕層がマイカーで接種会場に行けるのに対し、公共交通機関に頼る貧困層は行きたくても出遅れているという構図だ。
研究チームのケイト・アレグザンダー同大教授は、時に閑散とする大規模接種会場より、市民が身近に立ち寄れる小規模や移動式の会場を増やす方が効果的と指摘。「打ちたいか打ちたくないかという問題ばかり注目されるが、重要なのは人々が接種会場に行けるようにすることだ」と話す。
南アの人口は約6000万人。英オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」によると、2日現在で南アで1回以上接種を受けたのは人口の約16%、接種が完了した人は約11%だった。
5月から60代以上、7月から50代以上の一般接種が始まり、現在は18歳以上なら予約なしで接種を受けられる。7月以降は接種のペースも加速し、1日当たり25万回を超える日もある。貧困層の接種会場へのアクセスについては自治体による対策も始まり、会場を増やしたり、無料の送迎バスを運行したりする動きがある。
しかし僅かバス代が払えないからワクチンが打てないのであれば、我々が普段、恵まれない人々、地域に行っている寄付はどこで有効活用されているのだろうか?また 南アはアフリカ諸国の中では比較的経済力がある のであれば政府としてなぜバス賃を捻出しないのかが不思議でならない。
南アはアフリカ諸国の中では比較的経済力があるため、世界的なワクチン配布の枠組み「COVAX(コバックス)」からの寄付に頼らず、欧米の製薬企業などから独自調達を進めている。【ヨハネスブルク平野光芳さん記事より紹介、引用】