イスラエル、出生率3超えの秘密

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毎日新聞よりの情報
イスラエルでは、2019年の出生率が3・01に達し、少子化に悩む日本の1・36はもとより、少子化対策の優等生とされるフランスの1・83などを大きく上回る。先進国38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)でも2位のメキシコ以下を引き離すトップの数字だ。何があるのだろうか。

イスラエル中部モディーンの閑静な住宅街。広さ約260平方メートルの新しいマンションの一室で、ユダヤ人のギル・コーヘンさん(43)と妻のナタリーさん(41)は男の子4人と暮らす。一番上の子供は11歳。下はまだ1歳だ。「大家族は私の夢でした」。ナタリーさんは話す。

夫婦は共働きで、ギルさんはイスラエル財務省、ナタリーさんは障害者支援のNGOに勤務する。オフィスは2人とも、車で片道約1時間半かかるエルサレムにある。朝はナタリーさんが午前6時半に出勤。ギルさんは子供を保育園や学校に連れて行った後、出勤。夕方にはナタリーさんが子供を迎えに行き、夕食の準備をしたり、英語や柔道など習いごとの送り迎えをしたりする。目が回るほど忙しい毎日だという。

イスラエルの合計特殊出生率と1人当たりGDP

世界では経済が発展し、女性の高学歴化や社会参加が進むほど、子供の数は減る傾向が強い。だが、欧州、中東、アフリカなどから移り住み、イスラエルの人口の74%を占めるユダヤ人には当てはまらないという。ユダヤ人女性の出生率は1995~99年は2・62だったが、14年には3・11に上昇するという異例の動きをしている。

人口の約2割を占め、以前からこの土地に住むアラブ人女性の出生率が、60~64年は9・23だったのが、14年には3・35に低下したのとは対照的だ。イスラエル中央統計局が昨年発表した調査によると、ユダヤ人のあまり宗教的でない世俗派の女性は、67%が「3人以上の子供が欲しい」と答えている。

イスラエルの人口は現在、約933万人。約20年後の40年には、約1・4倍の1320万人に達する見通しだ。  

イスラエル中部テルアビブにあるユダヤ人博物館で、最初に展示されているユダヤ人家族の写真=2021年8月16日午後4時18分、三木幸治撮影

ギルさんとナタリーさんの2人は、多忙な毎日を送りながら、なぜ子供4人を育てることができるのだろうか。理由の一つは、「親族の絆」だという。ユダヤ教徒は、安息日とされる金曜、土曜や祝日を、親族一同が集まって過ごすことが多く夫婦が双方の両親と普段から親密なため、何かあれば、子供の面倒を頼むことができる。ナタリーさんは「親は、私の子供たちが病気になると、ときには数週間にわたって面倒をみてくれる。あらゆる面で金銭的な支援もしてくれる」と言う。

助け合う大家族はユダヤ人社会の理想だ。イスラエル中部テルアビブにあるユダヤ人博物館。入り口には、夫婦と4人の子供たちが、2匹の犬とリビングで幸せそうにくつろぐ大きな写真が飾られている。「子供が多ければ多いほど、家族は幸せだというメッセージです」。ハイファ大のダフナ・カルメリ教授(社会学)は指摘する。カルメリ教授によると、ユダヤ人社会では子供が多ければ多いほど、その家族は「モラルが高い」と評価される。一方、子供が2人以下の場合、周囲から「自己中心的な人間」とみなされる傾向にあるという。

イスラエルの臨床心理士アミットさんは、ユダヤ人が大家族にこだわるのは「1800年以上にわたるユダヤ人の離散の歴史が影響している」と指摘する。自らの国を持たなかったため、唯一の財産である家族を強くし、守ることがアイデンティティーとなっているという。第二次大戦中に約600万人が犠牲となったホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の経験や、1948年のイスラエル建国後も、その存在を認めない「敵」に囲まれ、戦火が絶えない現状の影響も指摘される。

イスラエルは現在、18~45歳の女性の体外受精を2人目の子供が生まれるまで全額補助している唯一の国だ。2018年には、4万8294回の体外受精が実施され、9399人の子供が生まれた。これは全出生数の5・1%にあたる。民族存続への意識は、こうした政策にも反映されている。

一方、子供を持つことを重視する社会の価値観を、重荷に感じる人たちもいる。テルアビブ近郊に住む、2人の子どもがいるユダヤ人夫婦(夫44歳、妻42歳)は「3人以上の子供がいるのが普通なので、親や友人から『3人目の予定は?』などといつも聞かれる」と苦笑する。夫婦のキャリアアップと子育てのバランスを考えた上で子供は2人と決めたが、「居心地の悪さを感じ、時には何か間違ったことをしているかのような気分になる」と話す。

ブラジルからイスラエルに移住したユダヤ人臨床心理士のテルマ・クレマーさん(54)は、元々は家庭より自らのキャリアを重視していたが、イスラエルで暮らし始めて、子供4人を持つ事に決めた。「イスラエルは子供が3人以上いて、母親が仕事を持つのが当たり前の社会。母親同士がよく連携し、子育てをする環境が整っている」と言う。クレマーさんは現在、オランダに住むが、「欧州では、より親の個人の人生を重視する傾向がある」と違いを感じる。

日本とイスラエルの出産事情を比較研究するハイファ大のツィピ・イブリ准教授は「ユダヤ人の母親が感じる子育ての負担感が、日本人の母親より軽く、それが出生率の差につながっている可能性がある」と指摘する。その通りだと思う。

日本では通常、妊娠が分かると自治体から母子健康手帳が渡され、子供の状態を詳細に記録することが求められる。出産後も「親が子供の面倒をしっかりみる」(イブリ氏)ことが重視され、保育園では親と保育士がコミュニケーションを密に取り、子供の成長を把握する。   一方、イスラエルでは、子育ては親だけでなく、親族や社会が行うものだと考えられている。保育園では保育士の裁量が大きく、親の負担は小さい。

イブリ氏は11年の東日本大震災の発生当時に、出産を経験した日本の母親や助産師ら50人以上の話を聞いた時のことを思い出すという。震災時に健康な子供を出産した母親が「こんな時に産んでごめんね」と子供に謝った姿だったという。「無事に出産したのに謝るというのは信じられなかった。育児に対する母親の重圧を感じた」と話す。

イスラエルが高い出生率を誇る背景の一つに、好調な経済の恩恵もある。今は新型コロナウイルスの感染拡大で陰りがみられるものの、世界でも指折りのハイテク産業がけん引する同国の国内総生産(GDP)成長率は、2016年から19年で3%超で推移している。19年に0・27%だった日本とは対照的だ。1人あたりGDPは18年に日本を追い抜いた。

冒頭のギル・コーヘンさんは、今後も経済成長が続き、収入が増えると確信している。一家は4人の子供のためにバルコニーのある大きな部屋に移り住み、車も大型車に買い替えた。住宅ローンの負担はあるが、共働きであれば、返済できない額ではないという。少子化が進む日本や韓国では、将来への経済的な不安が若い世代の結婚や出産をためらわせているが、イスラエルではコロナ禍の今も、そうした不安は感じられない。

ユダヤ人女性の出生率が1995~99年の2・62(平均値)から14年に3・11に上昇した理由について、ハイファ大のカルメリ教授は「経済の急激な成長が大きい。女性たちが収入の良い仕事に就くようになり、多くの子供ができても対応できるようになった」と指摘する。     人口の増加が消費の拡大を促し、それがまた経済成長につながる。日本とは逆の好循環が生まれている。

日本の合計特殊出生率と1人当たりGDP

職場では、育児を理由に午後3時に退勤しても問題視されることはない。社会全体で子育て世帯を支える意識が共有されている。

教育面でもイスラエルは日本や韓国、中国といった東アジア諸国と比べると状況が異なる。 日本などでは大学入試が頂点にあり、親の負担が大きいが、イスラエルは高校までの学費がほぼ無料で、大学の学費も比較的安い。何と言っても高校卒業後には、ユダヤ教超正統派など一部を除き、兵役が義務づけられていることが大きく、軍が職業訓練校の役割を果たしている。また、将来に向けての前向きな楽観主義や積極的にリスクを取る国民性も、結婚や出産時に将来の家計を心配する日本と大きく異なる。

個人的な経済の問題や子供を育てる負担と不安とかのいくつもの考え方を社会全体で変えていかないと日本の少子化は決して改善されないと強烈に感じざるを得ない。ある意味、昔の家族体系に戻った方がいいのかなあ・・・・?


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